囀々 懸賞繪ハガキを見て

やぶうぐひす
『みづゑ』第四
明治38年10月3日

▽この間催された、日本葉書會の、懸賞繪ハガキ選評の時に感した事を、少し饒舌つて見やう、言ふ迄もなくこれは僕一個の考ではあるが、應募者には多少他日の參考にもなるであらうと思ふ。
 

鵜澤四丁氏筆着色鉛筆スケツチ

▽どんな繪が當選するであらうか?僕の見る處では、餘りに奇拔に過ぎてもいけぬ。無論平凡でもいけぬ。際立つて善くなくても、誰にでも好かれるやうなものが、多く入選するやうである。
▽選者の數が多いと趣味が一致しない。從つて甲がよいと思つて十點を入れても、乙が二三點しか入れなけれぼ、甲乙共七點宛入れた、比較的平凡なものが高位置を占むる譯である。それ故委員の數の多い時は、存外滿らぬものに月桂冠を與ふる事になる。
▽それで、當選すべき繪を知るには其反對にどんなものが排斥されたかを見る方が早いから左に其例を示さう。
▽第一、調子の弱いもの。
 此種のものは多數陳列された時人の目につかぬ。一枚々々手にとつて見れば存外佳良なものでも、並べると力も勢もないため、見すぼらしいものになる。それゆへ線の弱い日本畫は最も不向である。淡彩もいけぬ。塲面を充分利用しないで、隅の方に小さく片よつたのなども頗る損である。
▽第二、意匠の古いもの。
 白鳥(スワン)や、ヌーボー式や、一層下つては月に兎とか、春雨傘に花びらとか、このやうな陳腐な趣向のものは、たとへ繪が上手であつて、色が整つてゐても、古い!といふ一言で排斤されてしまふ。
▽第三、模傲らしきもの。
 隨分奇拔な意匠でも、どこかにお手本がありさうな疑ひのあるもの、又は舶來にありそうだといふやうなものは選に入らなかつた。尤も中には甚しいのがあつて、みすみす委員の人の、曾て描いたものを其儘借用といふのもあつた。かゝる種類の繪の中には、眞に自分の趣向から出來たものも必ずあるに相違ないが、外形が舶來臭いと、嫌疑を受ける爲め氣の毒である。
▽第四、時局に關係せしもの。
 絶對にいけぬといふのではないが、よほど傑作てなくては注意を惹かぬ。總じて際物的のものは、高い好尚に適せぬものゆへ、多大な力を用ふるは骨折損であらう。
▽第五、色の俗惡なるもの。
 即ち色の幼稚なもので、金銀や、赤とか緑とか、華々しい色を澤山塗りたてた、けばけばしいものである。そのやうな強烈な色を、よく調和させる事は、中々困難な仕事で、失敗は免れぬ。併し、あまりに高尚ぶつて、澁い色許りで仕上たのも、共にいけなかつたらしい。
▽第六、不自然なるもの。
 遠近法や陰影の間違ひの不可なるは勿論の事で、委員中の日本畫家連には考證論さへ出た位いであるから、歴史的人物など描くには、此點にも注意を要するのである。
▽數へ立ればまだ澤山あるが、要するに趣向が奇抜で、圖柄が高尚で、且其取材は日本的に、色彩は強くしておちつきあり、全體の調子がよく引締つて整ってゐて、誰れの注意をも惹く事の出來るやうに描けば、當選疑ひなしである。

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