寄書 始めて三脚を購ふ諸君へ

川原星山
『みづゑ』第六
明治38年12月3日

 私は今年の春三脚床几を壹圓三十錢にて買ひました、然し三度買ひ損じました、依て爾來始めて買わるゝ諸君に御注意申しませう、即ち第一、革の棒に常る部分が二重に縫つてあつて且その近所にて糸の繼ぎ足のなきものを撰ぶことが必要です。これがあると直に抜けて破れてしまいます。又購ふ時に若し直ぐ破れたら無料にて修繕して呉れる樣約束をなさい。第二、少しは躰裁惡しくも眞鍮製のよりも鐡製の心を御買になることをお勸めします。私のも始め眞鍮製でしたから買ふて二三ヶ月後に折れて寫生中の畫をは滅茶滅茶になつてしまいました第三、棒は勿論樫ですが、これに黒い筋の入つて居るのはいけません。其の筋の處よりそげて折れます。私は一ケ月前に十二社附近で寫生中に折れてそれが爲め新に三本を購ふの止むを得ざるに至りました。

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