常葉草(ローレル會詠草)
『みづゑ』第七
明治39年1月3日
田中花涙
見送りのかへさ淋しき夕ぐるま露の小草野月あらはれぬ
吉岡夕舟
ゆく春を思ひにこもる姫のごと籠の鶯啼かずなりにし
筒井紅嵐
うつくしき島の御堂に白鳥のさだめを榮えて波に散る朝
村田愛美
御簾まきて花の香にゑむ姫君の月のおばしま何か憚かる
長谷白眠
大鐘のひゞき濡え行く青淵の水にこぼれぬ宵月のかげ
鹽田香園
靜けさは菱呑鯉に波ゆれて蘆の花ちる月の大沼
田中靜潮
夕霧やともし火あはき野の家を歌に思ひて辿り來る宵
小山田千紅
瑠璃流す小春の海にたゞよひぬ商天翔ける大とりの影
平川芝峯
秋鳥はうす靄ゆらぐ朝庭の花に來て鳴く二人が興と
渡邊光風
江戸名所姥が遊山は觀音の御鬮うれしく錦繪買ひぬ