繪畫鑑賞法の一節


『みづゑ』第八
明治39年2月3日

 畫家或は谿谷湖水山嶽水邊等、平常目撃する處のものをとり來りて其儘を描寫し、敢て毫末の思想感慨を加ふる事なし、これ山水を己れが有とする能はざるが故に之を摸して以て樂むといふに過ぎず。即ち一たび杖を曳きし地を記臆するの用に供すべく、吾人が行旅の途次購求する數葉の寫眞と毫も其用を異にせざるなり。之を應接間の壁間に掲げて以て壁紙の破罅を掩覆するも可なり、藝術の世界は爲めに一の益する處あるなし。

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