批評 水彩畫手引

うぐひす
『みづゑ』第八
明治39年2月3日

 此書が評者の手詐に來てからまだ日が淺く、熟讀する間がない故細評は他日として、爰にはたゞ瞥見の感を述べて紹介だけして置く。著者の苦心談はハガキ文學の新年號にあるから詳しいことはそれに就いて見られたい。
 書は四六判クロース金銀刷の立派な製本で、中には曾てエハガキとして世に出でた水彩十景が、澁い色の羅紗紙に貼られて挿入してある。其他著者の筆になった大小の寫眞版、お定りの繪具箱や三脚の木版圖もある。本文は先づ用具の説明、寫生の描法、寫生畫の解説等に分れてゐて、從來世に行はるゝ類書に比して格別新しい説も見えないやうであるが、説明はちと冗長と思はるゝ租親切に書てあつて、恰も氏に逢つて直接に其説をきくやうな惑がする。其文章もかの墨繪講話のやうに固苦しくないのは何より嬉しい。卷尾の三四十頁は氏が風景畫に對する意見で兎角迷ひ易い初學の人々には最もよき訓戒であらうと思ふ。(うぐひす)

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