春模様(ローレル會詠草)


『みづゑ』第八
明治39年2月3日

 佐藤石門
 大利根の瀬に青淵にほとゝぎす山つ少女の歌ながるなり
 長谷白眠
 銀鞍の白馬よそほひ初春の森をよこぎる朝月夜かな
 光琳の一筆がきやいさゝ川春の御國の松流れけり
 尾崎蓑江
 繪はがきに春の譜うつす入念の手墨は濃かりき梅白かりき
 吉岡夕舟
 玉あられ十反の帆を高あげて海賊船はともづな解きぬ
 戰ひや牡牛五百をひき具して角笛ふきぬ獅子棲む國に
 有馬潦月
 紅梅やよしある人の隠れ家に似つとかいまむ破れ築地かな
 小山田千紅
 たゝずまひ雪にやならん奈岐の峯めぐりて酉へ流るゝ雲の天地は今新なる霞して奇瑞をほこる初春の山
 今村曙雪
 紀州路は黄ばむ蜜柑に薄日して朝旅さむき霜けぶりかな
 渡邊光風
 塔の夜を春姫おぼろの月に打つ花の礫は環と碎けたり
 緋ばかまの官女なよらの踏青や牧を遠見のたんぽゝ日和うつろ木に神語なんど聽き得やと詩歌癖森の夜を惑ひぬる

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