繪畫鑑賞法の一節


『みづゑ』第九 P.3
明治39年3月3日

 若しそれ正しく眞實ならんには畫家の職を要せす、盖し撮影器に古今何れの畫家の手腕に比するも更に絶體的に完全なるものなればなり。藝術中には精細に比して更に或るものあり。繪畫にありては形體及線條に比して更に或るものあり。色彩はその一要素たり。活動これその一要素六り。生命、香氣、勢力、思想、感情、慾情等、皆これその問題中に入るべきものなり。面して最後にありては總て諸考案を聚めたるものに比して往々更に絶對なる天姿の英才獨特の筆法あり、ブレーク。ミカエル、アンジエロ、ミレー、コロー、ルソー、トロヨンの諸氏はこの最後の性質を有するものにして、吾人その諸作の前に立つや殆と諸規律を放擲し單にその儘に満足せんとするものなり。如斯はこれ規矩繩墨を脱却したるものにして、その初めは非難紛々たりと雖も遂にこれを規律として仰ぐに至る獨特の筆法にして聰敏の筆力たるなり。(繪畫鑑賞法の一節)

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