『春の雪』説明

大下藤次郎オオシタトウジロウ(1870-1911) 作者一覧へ

"T,O,生"
『みづゑ』第九 P.13
明治39年3月3日

 圖は小石川江戸川の所見で船と雪との關係が面白く思はれたので羅紗紙へ描いて見たのである地平線を高くしたのは土手の上から見下した故で又船のある方の堤の上が複雜で却て邪魔になるからである且かくすれば河の幅も廣く見せる事が出來る色は枯葉の黄なる土の赭き等まだ澤山の色が見えたがこのやうな圖案的な繪には簡潔を尚ぶものであるから僅に若草の緑と船や樹の幹の暗き紫との二色を用ひたに過ぎぬ描寫の順序は色紙の上に輪廓をとつて初めにホワイトにて雪を描き乾いて後草次に船や棧橋樹幹に及ぼすので縁はレモンエローにヱメラルドグリーンを混ぜ舟や幹にはインヂアンレツドにオルトラマリンを混せて暗紫色を作つたのである
 

平和一等相田寅彦

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