ローレル會詠草


『みづゑ』第九 P.17
明治39年3月3日

 長谷白眠
 彩鳥の桃いろなるが飛びて來ぬ君と雨きく夕ぐれの戸に
 佐藤大蛾
 みづうみもやがて見ゆべき二荒の山すそみちや龍膽の花
 中尾紫川
 しら梅や五百の稚兒等招じ來て管絃樂の幔幕打たん
 三谷蘆華
 潮さゐに舟出せし子を思ひては泣きぬ昔の安濃の松ばら
 都河不老
 七谷の老木ことごと聲あげて叫ぶに似たる山おろしかな
 吉岡夕舟
 磯やかた姉と机をならべては千鳥鳴く夜を歌ならひ居り
 長谷川花舟
 水かひて駒をいたはる老將のかぶとに照りぬ森こぼれ日
 高村紫翠
 たそがれや歌聲やみて少女等の銀杏の森の團居くづれぬ
 山本春陽
 くしび音に百鳥うたふ野の春や緑小草の香もあたゝかう
 大柳錦子
 日の御神天馬よそほひ鞭とりて雲の彩門を今し立たすも
 渡邊光風
 ローレルの常葉環冠丹照る實は玉と譽れの額にかぐはし

この記事をPDFで見る