『春』の説明(みづゑ第十參照)

河合新蔵カワイシンゾウ(1867-1936) 作者一覧へ

SK生
『みづゑ』第十二
明治39年5月3日

 水彩て人物畫を正直に仕上たものは、吾邦の今の石版術では到底印刷する事は出來ぬ、夫故巳むを得ず極めて省略した描法をとつた。
 圖は見らるゝ如く、田舍の風流な老人とその孫娘とであつて、瓢と辨當とを携えて御花見にゆく道である。さて人物畫の尤も六づかしいのは顔の着色である、此繪はカーマイン、マダーレーキ、ブラオンマダーの類が主な色で、老人の髪は通常多少の黄色を帶びてゐるものであるから、僅かのレモンエローを用ひ衣服はインヂゴーに少許のエローオークルを加へ、下穿と足袋はロエーオークルに薄きブラオンマダーを使用し、帽子や衣類の陰の暗い色はニユートラルチントにブラオンマダーを交へしもの、瓢はエローオークルとブラオンマダーで成つた。娘の衣類はインヂゴーで、襦袢の襟はヴェルミリオン、腰卷はエローオークルにクリムソンレーキが加はり、陰は同じくブラオンマダーである。空はコバルト、地平線の方にクリムソンレーキが入つてゐるのは見た通り、草はホーカスグリーンで、其他は別に細説の要もあるまい。

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