寄書 スケツチ研究の必要
△□○生
『みづゑ』第十三 P.18
明治39年6月3日
今言ふスケツチとは水彩畫で寫生するのでなく、只鉛筆で物體の形態或は一瞬の状況等を速寫する事を意味するのだ自分の常々居る處の物は大體見慣れた物計りだから一向スケツチの必要を認めぬが、一歩郊外に踏出すと珍らしい物が澤山あるので、自然之を寫して參考に殘して置たいと云ふ感じか起る。然し之を一々水彩畫で畫くのは甚面倒である、そこでスケツチの必要か起る旅行した折等は、其所の一寸した風景や名所や、偖は風俗等寫さうと思ふ者はいくらもあるが、それには矢張スケツチするが最上策だ。前にスケソチした點景を、工合よく他の畫面にはめ込むで、大層よくなる事かある、然し水彩等寫生中に折よく點景の材料が居でも、ゆるゆる寫して居る間に居なくなつて落膽する樣な事は屡ある。斯樣な場合にはスケツチの効果は餘程多い。要するにスケツチの研究は吾々に取つては肝要な事であろうと思ふ。