上州吾妻河畔に旅行中の晩霞氏通信の一節
『みづゑ』第十五
明治39年8月3日
當地に着してからといふものは、毎日の降雨で寫生に出る事が出來ないで大に閉口、加ふるに非常出水で、橋が流るゝ家が流るゝ、山がくづるゝと、ふ始末で、僕等の居る旅亭も崩れ落ちはせぬか等、それはそれは心配一通りでなかつたが、漸く晴天となつて先は無事に濟んだのは幸福である。天氣になつたは嬉しいが、炎熱はこの山里にも押かけ來たりて、草蒸れの暑さといつたら丸で火山の穴の中にでも居るやうである、今は毎日毎日、山を登つたり谷に下りたりして居るよ(上州吾妻河畔に族行中の晩霞氏通信の一節)