寄書 此頃のお小言

近藤靜遊
『みづゑ』第十五 P.17
明治39年8月3日

 店にばかり居ずと折々運動のため散策に出よと勸められても、田舎は同じような處ばかり故出ても飽きがきて直に歸る、亦出る戻る、格別保養にもならぬのである、
 或日不斗水彩畫の栞を購讀して早速入用の道具を買求め、試に寫生に出たが素より經驗がない故描けそうな筈はなけれど、面白いので其後度々行くと同じ處も景色は刻々變化する事に氣がつき外出は益々愉快になつて、胃病や惱病は跡方もなく全快した、外へばかり出ずと内にも居て貰はねば店が差閊へるとは、此頃のお叱言である。

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