寄書 數學の先生

孤崖生
『みづゑ』第十九 P.18-19
明治39年12月3日

 雨が止んだゝアラッ、、、、、、。
 黒澄んだ、お庭の松の木の間に、たつた今、水で洗つたよーな、十五夜の滿月が、、。木々の葉末に置く露玉にキラキラと映じて、なんとも云へない目の醒めるよーな、雨後の景!。『寫生ダッ』、私はこー叫んで書齊から、手探りで寫生箱を、持ち出して、橋本さんが洋畫一斑で云はれた西洋蝋爛の光で、セッセと寫生に取りかゝる。空の色がウマイ事出來たそれから月の色が出來た、大下先生の、教へらた重潤で、ヤッてのけたが見事傑作、間然するところが無いと自分でホクホク喜んで居ると、數學の教員をして御座る一番の兄さんが後から、『フン寫實々々つてやかましく云ふがコリャ何故月の斑點を畫かないんだッ!!』。

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