『みづゑ』第二十一
明治40年2月3日

◎畫道一斑全中村不折著
 小石川區久堅町日本葉書會
 四六版二九〇頁、總クロース綴八十五錢
 現時洋畫界一方の將たる中村氏の著述にして、先づ美術の定義より初めて構圖、色彩其他あらゆる技術上の注意を網羅し、繪畫史及流派に迄説及ぼし、猶附録として寫生旅行の注意、過去一千年間の有名なる畫家の人名録、及生死年表、東西名匠遺訓等を載せたり。所説極めて穏健に、文章簡にして要を得たり。現今洋畫に關する著書其數少なからずと雖も、皆獨案内手引艸の類にして。繪具用筆等の末に走り、根本より解釋を下して繪畫の何者たるかを教ゆるもの殆となし、此書は山の色水の描法を説かざるも、夫等を知る前に心得置かねばならぬ大切の事項を説明し指示しあれば、苟も筆を手にせんとするものは一讀多大の利益を得べし、加ふるに三十葉の口繪は參考品として又大なる價値あり、余はかゝる眞面目なる美術書の出版を歡迎し、併せて本誌讀者の一讀を勸む(T、0生)
◎漫畫一年全小杉未醒著
 京橋區銀座三丁目佐久良書房
 角形クロース綴定價九十錢
 著者小杉氏は當今畫界の一奇才なり、殊にコマ繪に於て優に一頭地を抽けり、此書近事畫報を賑はしたる一年間の諸作數百圖を集め一巻となせしもの、畫には一々文壇諸家の賛あり、合せ見ば興の盡くる期あらさるべし。猶毛筆線畫を學はんとする士には好參考書たるべく、粧釘極めて美なれは書架を飾るに適すべし
◎畫紙水張用縁貼紙
 神田區表神保町文房堂
 極めて便利なるものにて族行中など殊に妙なり、但幅は五分にては廣過て邪魔になり、又價一尺三厘は不廉にして學生用になり難し、今少し廉價に出來ぬものにや敢て發賣元に御相談申す

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