漱石氏の水彩畫
『みづゑ』第二十二
明治40年3月3日
近刊の新潮紙上、漱石氏の一夕話をよむと、氏も「猫」を書いてゐる頃には水彩畫に筆を染めたもので、近頃は多忙のため描く暇もないそうであるが、氏の云ふ處によると「この間引き越しの手傳いに來てくれた人に自分の畫帖をやつて、それから後に其人の家に行つて見ると、ちやんと額にして恭々しく掛けてあるぢやないか、見ると柳は柳らしく見えるし、家鴨は家鴨に見える、こんな事なら廢めないでもよかろうかと、我ながら感心したよ」とあるから、滿更なお腕前でもないと見える。