新奇は美にあらず


『みづゑ』第二十二
明治40年3月3日

 想ひ起す、予若うして伊太利繪畫の偉觀を耳にするや、想像すらく、大畫は必ず大異常のものなるべし、色彩形状の配合は人を驚かし、眞珠黄金の未開的裝飾は、小學兒童が軍旗軍戟に於けるが如き好奇心を與ふべし、見聞するものは未だ曾て知らざりしものなるべしと、然るに後年羅馬にゆきて親しく其繪畫を觀るを得るや、予は天才が空想徒飾の快樂を初心者に委して、自己は徑ちに單一至眞の境に透徹せるか認めぬ。凡ての繪畫は予を眩ぜしめずして予か親ましめたりき。要するに大畫幅の單純なるは、尚大事業の單純なるが如きなり。(抱月氏舊稿)

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