寄書 反古集
森榮一
『みづゑ』第二十二
明治40年3月3日
◎昨日自分の占いスケツチを見たら何れも色が極端に美くし過ぎて實に不自然で有た考へれば其時分には石版摺を見て水繪とは皆此樣に美くしい者と思て居たからで有る
◎展覽會を見に行のに家を出る時は今日こそ大家の調子の付方其他をよく見て來ようと思がいざ會場へ入ると山の樣な作品が何も取々に精巧を極め實に見事なので只あつけに取られてしまう。其れで家へ歸て考がへると別に大いして得る事も無いで只己れに深い印象を與へた繪が殘て居るのみ(展覽會も一度や二度行たのでは駄目だ)。
◎近縣へ寫生に行くと見物人がよく云ふのは東京から此處迄來て書いては餘程高く賣のでしやう家へ歸て是を見て何枚も書くのでしやう。