評
『みづゑ』第二十二
明治40年3月3日
◎日本名勝寫生紀行第一編
神田表神保町 中西屋
四六形美本定價貳圓五拾錢
此書は山本森之助、小林鍾吉、中澤弘光、岡野榮、跡見泰諸氏の筆になれる寫生畫七十枚近くを集めしものにして日光、中禪寺、榛名、妙義、淺間、澁温泉、長野、諏訪、木曾等の各地の風景を綱羅せり。繪には油繪あり水彩あり色鉛筆ありてとりどりに面白きに、そを刻むに原色版、木版、寫眞銅板等あらゆる樣式を用ゐたれば、幾度繰返し見るも飽くることを知らず。巻尾の紀行文は、畫家として文名ある小林氏の筆に成りしこととて、情景視るが如く、一節毎に繪を開きつゝ多大の興味を以て一讀したり。製本の意匠内部の粧飾何れも工風を凝せしもの其價に比して極めて廉なり。乍併そは實質の上について云ふ事にて、吾國の富の程度にては、廣く何人にも頒ち難からべく、第二巻よりは先づ五六部に分冊して發行し後ち合本とせば讀者に便利なるべし。猶四六形にては、折角の繪を縮めて遺憾に思はるゝ點少なからず、此次よりは菊判以上に改められんことを望む。
◎水彩熱海風景大下藤次郎筆
日本橋區通二丁目松聲堂
繪ハガキ石版印刷六枚一組貳拾五錢
熱海海岸、梅園、來宮神社、魚見崎、温泉寺、伊豆山等の風景を寫せしもの、從來松聲堂發行のエハガキに比して製版印刷共に出來榮よし。
◎週報文藝の週刊雜誌にして頗る清新の材料に富み活氣ありて趣味多し希くは散文とやら美文とやら夕暮のまちはづれを歩いて何やらの感にうたれし小川の水は美しいとか花が流れて來たとか甘つたるい場處塞げは他の所謂文藝雜誌に讓つて文界の消息報導評論等に重きを置かれんことを(毎週日曜日發行一部五錢芝區神谷町週報社)
◎海國この雜誌を見ると氣が若々しくなつて急に太平洋の眞中へでも飛出たくなる三月號には畫家の文章が出るとの事、文士が畫をかく樣なもので嘸面白いことであらう