寄書 僕等の福音

山本野琴
『みづゑ』第二十三 P.19
明治40年4月3日

 先頃友人の晩韻子が大下先生のところへ參つたおり、いろいろと、お説話を項ひたそうだが、その時先生は『まづ水彩を學ぼうとする初學者は、郊外の漠たる寫生をするよりか、むしろ小範圍内に限れる一木一草とか、芝生とか、または、土橋、垣根、燈籠、岩、石等の一小部分を一個々々、精密に着實に寫生したならば、他日人の模倣し得ざる獨得の發明、や、熟達をとげるだらう。』云々と、呉れ呉れのお説諭であつたとのこと。
 あゝ!僕等のやうな初學者にとつては、何と云ふ尊とひ福音でしやう。

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