寄書 感謝

月草生
『みづゑ』第二十三 P.19
明治40年4月3日

 卅四年夏病んで或海水浴場に加養の身となつた折、愛讀して居た文庫に、大下先生の水彩畫の栞が廣告されて居るのを買つたのが水彩畫に志した動機で、昨春『みづゑ』九號に接し、再び各枯れて居た嗜好が萌芽を合し、日曜も祭日も無い多忙な職業の寸閑を盗み得てに彩筆を弄して★しんで居る、殊に往診の途上、自然の光景を研究すれば其苦も知らず、一二里も敢て遠くは無く、無趣味な山路も大に趣味を感じ愉快てある。又職業上に利益を與へたのは觀察力の養成で、殊に診斷の粗略を精密ならしめたのは、畫に志してからの事で、大に感謝して居る次第である。又別問題であるが、僕は大下先生を木下と讀んで居たが、此頃始めて氣がついた。

この記事をPDFで見る