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『みづゑ』第二十三 P.20
明治40年4月3日

□追々寫生の好時節と相成候、同時に寫生家にとりて大々的禁物なる毒虫が横行致し始め申候、殊に困却するはブヨ若くはブトと構する小虫にて、手といはず脚といはず攻撃し來り、然も厄介なるは眼の先にてクルクル廻る事に候。
□毒虫の豫防法としては、手には手袋を用ひ、脚は脚袢に足袋といふ仕度を致候へはよろしく候、ある人は夏季用として、白カナキン一重の薄き脚袢を造らせ、寫生の時丈け用ゐ居候。
□會て蛇嫌ひの人が、安線香を自己の身邊に立てゝ攻撃を防ぎし樣本誌に投書有之候、線香を身の廻りに立つるはチト變なものに候、煙草を燻するは一時の功あるも永續出來ぬものに候。
□モチグサと稱する草の汁を手足に塗り置けば毒虫は止まらず、又刺れし跡にも功ありとの事に候、アルボース石鹸もよしとの事に候。
□目の前でクルクル舞をする奴は、近頃賣つてゐる頭丈げの蚊帳を用ゐるより他に詮方あるまじく候。
□讀者諸君にして、何かよき豫防法の御實驗、又は御考案有之候はゞ、白他の爲め御一報下され度希望致候。
□次號には新歸朝者吉田博氏令妹藤尾嬢の寫生されたる西班牙アルハンバラの水彩畫を原色版にして掲出可致候。
□猶右の圖に添へて吉田博氏のアルハンバラに關する談話を乞ふて讀者に御報可致候。
□東京勸業博覽會開會に付御出京の本會々員及び地方讀者諸君は一度水彩畫講習所へ御立寄被下授業の有樣等御一覧被下度同所は毎日曜日開講致居候。

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