問に答ふ
『みづゑ』第二十三 P.21-22
明治40年4月3日
■1東京で苦學して出來る繪畫に關する職業の給料順序等を知りたし、但し畫家、教育家は別として2大下先生の東西社から出た繪葉書は本誌口繪の如き出來榮なりや(長野KO生)◎1石版の製版師などで、他に適當と思ふ仕事を知らず、製版師は五六年で一人前となり二三十圓より五六十圓位ひの報酬あるべし、詳しきことは其道の人に問はれよ2石版としては成功せしものなり■1毛筆線畫を學ぶによき臨本ありや2日本畫にて習得せし線は水彩畫に應用し得べきや(旭川愛讀生)◎別に適當と思ふ臨本なし尤もドノやうな繪をかくのにも(模樣でも漫畫でも)一通り黒繪の正しき線や濃淡の心得なくしては立派なものは出來ず、夫故矢張り鉛筆畫を學ぶ必要あり2水彩畫は無線であるから其儘應用は出來ぬが、日本畫の線を働かすことは筆者の工風にあるべし■1水彩畫階梯に夕の空を寫すに「夫より上部に漸次色の劣りし黄色」云々とあり其黄色は何なりや2要塞地寫生の許可を得て寫生したるものは完成後當局者に一見を乞ふ可き者か3反對美とは何を申にや4葉書大の繪畫を送るには如何にしてよきか5ローシーナ、バァントシーナ等使用する時小粒を生ず如何にしてよきゃ6調子の高き又は低き色とは如何なることにや(曙町晩秀生)◎1此際の色の劣りしといふは明度の劣りしといふ意味、即ち上部にゆくに順ひ色の暗くなるをいふなり2許可證の裏面にある通り3多く用ゐらるゝ言葉にあらず、只反對美とにては不明今少し詳しく問はれたし、色の反對によつて美を生するは、例へば赤の傍に緑といふ樣に剛性的美を見るべく、濃淡の反對としては純白の傍に眞黒といふが如く反對によつて美観と呈することあり4普通郵便にても開き封にても可なり、但開き封の中へ郵券を共に入るべからず5繪具の古き爲ならん練直して見給へ6調子の高いとか低いとかは繪の上に云ふべく、色の上では多く強いとか弱いとかいふなり、これは色としては積極的なものは即ち調子の高いので、消極的は其反對なり■1水彩畫法に筆遣ひといふことありや2水彩畫にホワイトを使用するの利害3パステル畫は各店に販賣する蝋ペにて代用し得べきや(二戸TF生)◎一定せるものなし、其寫すべきものに做ふて尤も便利の手段を取れば可なり2ホワイトは不得止場合のほか其儘使用すべからず、他の繪具と混じて使用するは可なるも手際よく仕上る事困難なりなるべく用ゐぬ方よからん3臘ぺといふもの不明、パステル繪具は隨分高價のものにて且描寫容易にあらず■1中學の圖畫教員となるには鉛筆畫のみにて檢定試驗を受くる能はざるか2春鳥會入會の手續は如何(三宅坂KT生)◎受くること能はず2往復ハガキにて規則書を取よせ見られよ■寄送の繪畫にして紙上に載せられしものには大下先生の御筆の繪はがきを戴くことを得るのにや(無名生)◎毎號會告にある通り優秀なるものに限る■透視畫法の書は何がよろしきや初學者にても解し得るもの(TF生、KT生)◎東京本町金港堂發行の寺野精一著用器畫教科書續編よろしからん附圖共五十七錢なり、但極々の初學者は幾何畫法から始めなくては了解に苦しむ點多かるべし■1擦筆は如何なる繪具を用ひて使用するにや2水彩畫にバニスを使用する場合は如何又畫面一面にニス引の如く塗るものにや3牛謄の使用する場合4花木に對する昆蟲の關係を知るには如何なる書がよきか5四季の雲の出る大慨を知りたし6專門家となるには森羅万象何物も畫面に上すに博物的に研究を要するや(神戸MY生)◎1チョーク又はコンテーと、よばるゝ鉛筆心のやうなもので光澤のない粉をつけて畫くのに用ふ、チヨークは丸又は角の捧状をしてゐる、それを硬き紙又は紙石盤の類で磨りて用ふ、色は黒と赭との二種あり2重に蔭の暗き處に深みを與ふる爲めに用ふ、光澤を要する場處、透明を要する場合3繪具の舒びの惡しきをよくさせる爲めなり、併しこんなものは徒らに面倒を増す許りゆへ用ひざるをよしとす4外にそれのみを説きたる書物あるを知らず、博物の本を調べたら期節などは直ぐ知れるならん常に心掛けて寫生してゐれば甚しき間違はあらざるべし5一言にして答へがたし、其等も實地寫生に待つ方安全なり初學者のみに限らず多少修養ある人と雖も無暗に想像的の繪を畫くことは望ましからず6博物標本的に寫すのは無益なり「水彩畫を學ぶの順序」を今一度繰返して讀まれたい■チユーブ入の繪具の固くなりしを葉鐵製繪具箱に詰め使用するも色澤に異状なきや(安房白井生)◎なし