山水畫について
『みづゑ』第二十四
明治40年5月3日
○曾て萬朝の華山といふ人は、山水畫は人を厭世的にする、人物畫を奨勵しろといはれた、一理窟はあるが、併し火と鐵との人間社會に活動してゐる人達が、安息日に郊外の空氣を吸ふことが、多大の慰籍である事を否定されぬ限りは、一幅の山水畫も、これ等の人達には好箇の清涼劑ではあるまいか。
○久しく病の床にある友からの手紙の端に『此頃いろいろな繪を枕頭の襖に貼りつけて眺めてゐるが、人物畫は見てゐても、何故動かぬかとの欲が出て、物足らぬ心地はやがて厭氣に變るが、山水畫は自分もその畫中に遊んでゐる樣で、いつ迄見てゐても飽きぬ』とかいてあつた。