寄書 圖畫のある日

凭美
『みづゑ』第二十四
明治40年5月3日

 澁々學校へ出たら案の錠數學と英語の教師に例によつて小言を澤山頂戴した、そうしたら他の生徒が其度に笑つた癪にさはつてたまらなんだ、けれど「畫の時間に見ろ」と腹の中に思つて居た。諾の時間に自分ながらもよく出來たと思つた寫生の一枚を持つて圖畫の先生に批評を乞ふたら、大へんよく出來て居ますと賞めてくれた、そうして其畫と傍にあつた眞黑な下手な畫とを生徒の方へむけて何うですと云つたら又皆が笑ひ出した、其中に只一人赤い顔をして下をむいて居た奴がある、之が前の時間に僕が小言を食つた時一番笑つた奴だ、それ見うと云つてやつた、そうしたらむしやくしやして居た心も何處かへ去つてしまつた。

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