寄書 寫生小説

本多金藏
『みづゑ』第二十四
明治40年5月3日

 柿と林檎の寫生をして居ると、又おつちやんは畫いて居るの、畫ききつたらおくれといつて時々來て催促するのは今年五つになる姪だ。
 寒い日に寫生して居ると、後から來て、いやお寒いのに御苦勞樣と聲をかけられるとなんだか愚弄される氣がする。
 あまり人の通らぬ橋の上で寫生を初めたら、さる人が來たので退くとたん、苦心惨憺漸く出來上つた水繪がばつさり川の中、こつちも氣の毒向ふも氣の毒に思つた。場所はつつしむべしだ。

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