水彩畫に志しし最初の動機

凭美
『みづゑ』第二十四
明治40年5月3日

 「おい今水彩畫をやつて居るか」「やらない話せないなあ上手だらう」つて僕が中學の一年の時暑中休暇に歸省したら、兄が自筆の水彩畫を出しながらかう云つた「だつて來年からやるんだ」と云つたら、來年の事なんか云やあ鬼が笑うつて冷かした、此の時は一寸しやくにさはつた樣な氣がしたけれど、これが僕をして水彩畫に志ざさしめた最初の動機であつた。其休暇後早々道具を揃えてやり初めた、今も尚熱心に研究して居る、そうして一年に三回の休暇に歸つて兄と二人で繪筆を取つて競技するのが何よりの樂しみだ。

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