問に答ふ


『みづゑ』第二十四
明治40年5月3日

■一佛語にてLaque Carmine Rose とあるは英譯せば何となるでせう二練製繪具の乾燥したるものは結局乾製繪具と同じきものですか(淺草小松)◎一ラツクカルミンローズはヤニがゝつたるカーマインの薄き色にて凡てラツクはヤニ色の類にてラツクロベルトが普通のビチユームに近き色にてラツクド、フエールがエローオークルのヤニがゝりたる色の由小林四弦氏より承り候、二製法も異る爲め練製の固くなりしのはポロポロになれど使用上に絡別相違を認めず■僕の所持する水彩畫筆は近頃筆の尖が四角に分れて反て使ひよくなつたが此筆は使用して害なきや(YS生)◎害なし時にはヤスリ紙で尖をスリ切りて使ふことすらあり■一『みづゑ』廿三ギルチン筆の「橋」の圖中央の家や橋の傾きてゐるは何故が二大下先生筆新月の描法を知りたし(赤坂虹影)◎一何故なるやを知らず多分あのやうな場處を寫せしならん二これは空の處と同しやうな色の羅紗紙に描きし者にて樹木や下の崖はライトレツドにオルトラマリンを混ぜた繪具月はレモンエローライトを濃くして後から點じたのである■一私は將來畫家を望むもの美術學校に入學するに白馬曾と太平洋畫會と何れの研究所が勉強に都合よろしきや二ワツトマンに描くに浸み込みて繪具舒びず如何なる理由にや三大阪に開かるゝ講習會の規則は前回と同一なりや又自宅より通學してよろしきや(大阪乙部笑波)◎一何れにても同じそのうち本會研究所にても毎日墨繪の研究をなすべき設備をなすべし二保存法惡しきためなりワツトマンは濕氣を含むと斑點を生じ終に使用に耐えず紙に其製造年號を漉込みあるはこれが爲めなり、毎年四五月頃には其年製造のもの舶來すべし新に求むる時年號を見よ。保存法はプリキ又は紙筒にてもなるべく空氣の流通を防ぎて濕氣電き處に置くべし三大概同じなり本號の會告を見られよ勿論自宅より通學して差支なし■一丸山先生のお話にインヂゴーの代用として日本畫の藍棒を用ひてもよいが冬は用ゐられぬとあり如何なる故にや二日本繪具のタイシヤ棒はライトレツドの代用とならぬにや(陸前YK生)◎冬は凝結して戸外にて使用不便なり室内にて溶き皿を暖ため用ふればよろし二代用とならぬ事もなけれど不充分なり■一肉筆臨本を額面として使用し得る樣な風景畫を得らるゝや二大下丸山先生等の常に使用せらるゝ寫生箱はどの位ひの大きさにや三昨暮上野で拜見した大下先生の赤城の畫はあんな大きなものを山へ擔いて行かれたのですか又は畫室にて延ばされたのですか(KT)◎一額面となるべし二通常は九ツ切位ひの寫生箱、一ヶ所に滯在する時は二ツ切又は四ツ切位ひの大なる畫嚢を携えるあり三あの繪は赤城で九ツ切に充分精密に罵して來て書室で仕上たものなり半切仕ひは現場にて仕上る事珍らからず■一小生は鷄をスケツチして畫きたるに至極忠實の心組にて作製したるに標本的のものとなれり其後觀察を密にして筆を粗にせよとの故此度は龜をスケツチして少しく筆を粗にせしが忠實の點に足らざるやの感あり要するに水彩畫の本色と標本的との其間の消息那邊にありや二修養中は殊更に筆を粗にして水彩畫風にと思ふよりも矢張り標本的でも忠實に重きを置く方宜敷や追々研究を重ねれば目下標本的にても他日眞の水彩畫を畫き得るやうになりますか(兵庫MY生)◎一二共『みづゑ』二十二、二十三のイースト氏の寫生談、二十三の主觀と客觀等熟讀せらるれば自ら答を得べし■大下先生の金港堂發行水彩畫帖第一輯の「箱根の殘雪」にて残雪の山の前の赤色のものは山に候哉、また此圖は何日頃何處邊よりの寫生に候哉次に第二輯續刊の御心有るにや(礫川愛畫生)◎枯草の山なり、色刷の都合にて少しく赤過し樣なり、時は一月初旬場處は小田原早川の橋の邊より、次て續刊は書肆の都合次第、第二輯には未だ着手せず■自畫石版の一切の必要具は何程なりや又石叛用インキは素人にても使用し得べきや(一紅)◎凡そ二圓位、又インキは使用し能ふ

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