色の重量について
山水無盡藏
『みづゑ』第二十五 P.15
明治40年6月1日
夫れ葉も縁なり、蔓も翠なり、其は天地皆一青のみ、我おもふに、若し色そのものに重量ありとすれば、青は最も重かるべし、濃ければなり。今見わたす限り、村家の軒を這ふ絲瓜も青く、垣に巻舒する零餘子も青く、たゞその間に離々點々、鳶色の藁屋根を露はすのみなれど、それすら闇きほどに縁を浴びて、中に棲まへる人は蠢々として芋蟲の如く青からんとす。其の大地はこの億萬斤の重量に堪へて、能くみじろかざるなり、我は天の崇高を説くものにして、何故に地の壮嚴を讃嘆せざるかを恠しむ。(山水無盡藏)