寄書 己の特色を知れ
松尾寒月
『みづゑ』第二十五 P.19
明治40年6月1日
僕も拙い乍ら水彩繪具を、いぢつて居る者だが、どうも僕の描いた繪はまづい樣に思はれてならない。友人や他の人のを見れば何れも特色があつてよい。僕の繪はどうしてこんなに拙からう、どうかして、よい繪を描きたいものだと獨り悶へた。それでも僕の繪を友人が見て、君の繪には特色があると云ふ、然し僕には解せぬ。
去年の秋『みづゑ』の第二十九回絡葉書競技會へ、何等を得るかと試に久保田榮作として匿名にて投書したら幸に十四等を得た。競技會の記事を見たら、こんな事がある。・・・・・・久保田の諸氏は同一筆法にして、其の色も殆ど似通へり、希くは他人の眞似を爲給ふ事なく、自然に向つて忠實に其の色を研究し、各自の特色を出されん事を望む。とあゝ、僕の迷霧は此の時すつかりはれた。
大下先生に謝す。
僕の樣な感じを持つ人は僕ばかりでは無かろう。みづゑ讀者の中にも多數あるだろうと思はれる、諸君、諸君の特色を知られよ、然してそを、發輝せられん事を、