日本人と外国人

河合新蔵カワイシンゾウ(1867-1936) 作者一覧へ

河合新藏
『みづゑ』第二十六
明治40年7月3日

 日本人で巴里で繪の修行をするには一ケ月十圓もあればやれます、固より多い方がよいが、巴里は開けきつてゐるからドンナ風をしても構はぬ、暮し方は如何樣にもなる、セビロの儘でも濟む、畫室が入用であれば、棟割長屋のやうに出來てゐて一ケ月二十弗も出せば借りられる、水も來れば瓦斯も來る、宿泊も出來る、光線は上から來る、此畫室で自炊して(實は許してはないが)日本の通りの生活が出來る。
 日本人と外國人との差は、其技術の點に勝り、魂氣の點で負ける。金のあるものは贅澤三昧で修業して、妻子と家庭を造つて遊び半分にやるが、貧乏なものは稼ぎながらやる、處が申には隨分下手な人が澤山あつて、年も取つて居る。日本人は少しでも自分より上手な人が多いと直ぐに失望落膽するが彼等は一向平氣である。日本人は成功を急ぐから途中で止めるが、彼等は撓まず屈せずコツコツとやる、粘り強い。(河合新藏氏談、アメリカ)

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