不自然と自然
平木白星ヒラキハクセイ(1876-1915) 作者一覧へ
平木白星
『みづゑ』第二十六
明治40年7月3日
尾形光琳の畫風は不自然の極、作り過ぎてゐると今まで見てゐたのは全くの無智識だつた、飄逸なる彼の風格も畢竟自然を摸倣したものだと初めて心づきしは、京都の町から二里、鷹降村の光悦寺を訪ふた時である、光悦寺は本阿彌光悦が大虚庵のあと、光琳は光悦の弟子なるは言ふまでもない
腰の高い障子を啓け、椽から南庭を不圖眺めると忽ち眼に入る土佐繪さながらの風致、一筆がきに半圓を畫いた鷹降山や、ぬっと枝を伸した梅や、濃い墨汁をあくまで含ませた筆をぼたりと落してずいずいずいと無造作に引いたやうな三本松、氣韻縱横、恐らく光琳は師の庵室のこゝに立膝して、あの寂びに寂びた天地のたたずまいに對し、悟入する處あり、それを物にしたのであらうと思ふ程にこの邊りの自然は其人の繪となつてある。
美術は自然以外ならざる限りを以て自然に或物を加へ、自然よりある物を減す。(平木白星氏、中學世界)