寄書 そのひ

雪の下人
『みづゑ』第二十七
明治40年8月3日

 七月七日晴、寫生には持つてこいと云ふ好日和、畫嚢を肩に裡町を眞直に賣田山へ登づた、吾島の首夏!木も草も濃緑色だ、涼風がサツト吹く、藥師樣の傍の古井戸は何と無く畫趣が充ちて居る、其れを左に見て青い青い尺にも餘る夏草の中を抜けて高島街道へ出た、路傍には草花を摘む里の乙女の影二三、
 だらだら坂を登れば破屋一つ深緑に包まれて何とも云へぬ趣き!暫しこゝに三脚据へて美の園に遊むだ、
 おゝ今夕陽は向ふの山の端から名殘の光を下界へ放つてる・・・・

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