寄書 少女の繪

暁雪
『みづゑ』第二十七
明治40年8月3日

 元來僕は繪は好きでなかった、描きたくもなかつた、唯他人が描くのを見るのが面白い位、丁度三年の時學校に於て共進會があつて、生徒の製作品を陳列する事となつて各自習字繪畫を描く樣に命ぜられた、此の時急に野心勃々吾が畫を彼の額に入れたいものだと言ふ好奇心が湧いたそこで、色々の手本を見付けるに苦心し、何んでも奇抜なものを描こうと思ひ、少女を鉛筆で描いたが何うしても描けない、一時中止したがやはり僕の野心は枯れぬ。
 もう愈々明日は〆切期限である、そこで夜おそく燈火のもとにかいたところが、偶然にも一寸とうまく描けた樣で、少し似ておると思つたから翌日學校に出した所、無事會場に出品せられた。
 幸か幸かこれより僕は繪畫の面白いものであるを知つた、以後夢中で寫生した、丁度夏休みに白馬會の中原君が歸省せられて、共に石狩河畔に於て畫架に向ひ種々有益なる事を教はつた、遂いに今日では到底筆を放すことができぬ。

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