寄書 大失敗
MY生
『みづゑ』第二十七
明治40年8月3日
寫生中に子供の集まるのは眞に閉ロ、何とか工風はないものか大に苦しんだ上、白銅一個を出して、子供達に昆蟲の探集を命じた處が、七八名は喜んで何處へか往て仕舞つた、ヤレヤレ安心、以後この事事と心中に思ひ、天下の妙案と獨り悦に入つたすると又々一人二人と忽ち澤山集まりかけたので、今度は大一匹壹錢、小一匹五厘で買ふから、成たけ緩々取つてこいといふたら、直ちに立去つた。成だけ蟲の居ませんやうにと心に念じつゝ寫生して漸く出來上りに近づいた頃、幼年採集家は何れも集まり歸たが、採つた蟲の數は大小取混ぜ五十六匹、何れも大物計りで驚いた。隨分珍らしいものも中に在て、參考にはなるが、賞金大枚五十六錢は大散財で、ワツトマン二枚許り棒に振つたのは、妙案どころか例によって大失敗であつた。