島田蕃根翁の言


『みづゑ』第二十九 P.12
明治40年10月3日

 故、島田蕃根翁曰く特に畫伯ぢやとか、文人ぢやとかゞ、金錢に力瘤を張る樣ぢやつたら、決して其の作品は後世に殘らない。私は昔しから經驗して居るんぢやが、生前は潤筆料を貪つて二十兩五十兩ととつた人間はいざ其の人が物故するとなつたら、氣の毒な程値が下落ずる、これに反して今日まで、美術の極粋ぢやとか、日本の寶ぢやとか、千古不朽の妙作ぢやとか、相賞呼して、世に尊敬されて居る作品は、皆其の昔し、作者が金錢などは石塊と輕視し、好く赤貧に安所し、甚しきは落魄、米を買ふお金にも窮した程の人に限られた樣ぢや。すべて世俗を超脱したものなどは、其の生前は貧乏に苦しめられる、それが死後になると、其の人物の眞價が赫灼として光輝を發して來るから妙ぢや。(新公論)

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