神秘録[一]


『みづゑ』第二十九 P.15
明治40年10月3日

□神秘と言ふのは澁の方の流行語だ□第一着★失策は兩先生の前橋行である□長野では發起人らしい人が車窓を覗いては彼方此方をキョロキョロしてゐた□宿屋の名の塵表閣は振つてゐる□名前は振つてゐたが食物には閉口した□流石の晩雪君も不平が出た□併し景色は變化が多くつて結構であつた□澗滿の瀧、人間未到の地へ出懸て往て大冒險をやつた女丈夫がある□背の君がついてゐたからさ□藤蔓へつかまつて石へ足を掛けたら其石がガラガラと落ちた女丈夫は中プラリン、上からと下からで引上げ押上げして漸く崖の上へ登った□ソレで御當人は神色自若□傍で見てゐるものは顔の色が變った□新聞で自分を素ツぱ抜かれて急に金が多くかゝるといふて困つたのは○○子爵の君□ソレはソレは御愁傷さま

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