水貼ブロツク
『みづゑ』第三十四
明治41年3月3日
旅行の時に宿屋で一々紙の水貼をするは面倒なもので、終日寫生して疲れ切ってゐる時は殊更にイヤなものなり。さればとて普通のスケツチングブロツクは、繪具を彈き又は膨れ上りて畫きニクきものなり。水貼ブロツクはそれ等の弊を避くることを得べし。其法、まづ旅行前に入用丈けの紙を用意し、畫板に普通の水貼をして、乾きし時に其上へ第二枚目を貼り、順次かくして重ねてゆくので、何枚でも差支ない。そして一枚を貼り終つた時、番號をつけて置けば、使用しつゝアト何枚殘つてゐるといふこともわかる、板の裏表を用ふるは勿論、なるべくは二枚の畫板を用意して置くと都合がよい、繪を畫き終つたら小刀で上の一枚を剥がすので、此時注意しないと下の分迄剥がして仕舞ふことがある、ワツトマンは一度水貼するとよく風をひく事があるが、此法を用ふれば、中の方の分は空氣に觸れぬから其心配がない。