紹介
『みづゑ』第三十四
明治41年3月3日
横濱みどり會の機關雜誌にして、全部謄寫版、會報會員の奇稿を滿載せり、少數の幹事でこれ丈けの雜誌を出すのは其勞容易ならざるべし(非賣品、横濱尾上町島醫院内みどり洋畫會發行)
◎四星霜宮澤白楡著
本郷區湯島切通坂町宮澤書店
四六版二七〇頁五十錢
巻頭の長篇小説ワセダは、著者苦心の跡を見る、藝術によつて救はれたる主人公の經路も極めて自然であるが、あまり新しき形式に苦心して文章に不熟の點あるは惜むべし。口繪は洋風挿繪家戸張孤雁氏の筆に成り本書に一段の光彩を添へたり
◎アフリカヨーロツパアメリカ寫生旅行吉田博著
小石川久堅町日本葉書會
菊判美裝三七五頁上製壹圓五十錢
原色版三枚、寫眞版二十二枚は何れも著者及び吉田ふじを女史の筆に成りし油繪水彩等にして、これのみにても美術愛好者に推薦する價が充分ある。本文は極めて平易なる口語體にて著者と共に夫からそれへと樂しき旅路をゆく心地がせらるゝ、觀察に趣味多さは、他の海外漫遊者の企て及ばざる處ならん、巻末日本の水彩畫の項に「日本の水彩畫家は繪を描きたいと考へずに水彩畫を描きたいといふ人ばかり」と云はれてゐるが、今日ではそんな人はあるまい、其小品のみ多くして努力の少ないのを責められたが、これは實に其通りであつて、吾々が大に反省すべき點であらう
◎方寸第二巻第二號
此號は故淺井忠氏の追悼號にして石版には大原女ロンドン公園、馬蹄香、日本茶、十二月等あり、寫眞版には晩歸、旅順の搜索、年禮、グレの秋、小丹波、絵著書等あり、記事には石川欽一郎、和田英作、都鳥英喜、石井滿吉、露石、瓦全、白羊諸氏あり、他に雪のバルビゾンといへる書簡一通をのせたり(十二錢本郷區千駄木林町方寸社發行)
◎成功の失敗松岡正男譯
小石川小日向臺町家庭の友社
四六判四號組五三頁二十錢
本書はバブコツク博士のThe Succes ofDeefatを譯されし者にて、世俗的成功の决して眞の成功にあらざるを説き、失敗は或る意味に於て大なる成功なる事を懇切に説明せられたり。吾人はかゝる書の出版せられんことを願ふと共に、出來得るだけ價を低廉にして汎く世に頒たれんことを發行者に望まざるを得ず。