雅邦翁の作品について


『みづゑ』第三十五 P.20
明治41年4月3日

 一部の評家より極端なる理想派と稱せられし雅邦翁のことなれば、形似に腐心せざりしやうに思はるれど、一面に於ては大に寫實を重んじ、時には洋畫家も及ばざる實物寫生を試みたり。去る二十八年京都の博覽會に出品せりし猛虎の圖は、當時の批評界を賑はして、褒貶の聲なかなかに喧しかりき、翁は彼の畫を描かん爲に、毎日動物園に通ひ、猛獸咆哮の姿態を寫さんとなしけるが、長く檻中に封じられし虎は、自然に猛烈の氣を失し望みの姿を呈せざるより、翁は構圖に非常の苦心をなし、種々の寫生を參照して件の圖を得たるなりと。(日本美術)

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