丸山晩霞氏、夏の朝の森
『みづゑ』第三十七 P.14
明治41年5月3日
山紫水明の境は吾人をして仙寰の思ひあらしめる。山を遙かに望みたる田舍も又吾人に愉快と興味とを與ふるものである。殊に野花の亂開せる野原と、緑滴る夏の朝の森ほど吾等に快適するものはない。種々なる色彩の變化極まりなき野花に烏羽の蝶のとびくるふさま、緑深き森陰には白き百合の微笑みて、花には露の珠を宿し、夜べには星の光もうつしたらんその輝き、緑の鈴かと思ふ森の胡桃、どろ木の小さき葉は風につれて面白く動き、これ等の凡ては吾等の目を悦ばし新しき空氣は吾等の健康を益し、流るゝ水音と小鳥の聲とは吾等の耳に美しき音樂と響くのである、(丸山晩霞氏、女性と趣味)