通信

□□生
『みづゑ』第三十八
明治41年6月3日

 先生に告白致候殊に申上惡きことに候繪を畫くため學業を粗末にしてはならぬとは常に承り居りながら終々三度の飯よりも好物な繪のために先般の學年試驗に失敗致候それは自己の本分も忘れてたゞ一圖に專問家たらんと致し居候故に候先生にはさぞ馬鹿な奴と御笑ひのことゝ存候が小生は今度は大に覺醒致し候間御安心下されたく候いづれ東京へ修業に參り候上は傍ら水彩畫研究所へ入學し生涯の娯樂として繪畫を學ふことは慈愛深き父も快よく許し呉れ候間此上は專心自己の本分たる學業に勤め東京へ參るまではスケツチブツク位ひを相手として學業の餘暇を愉快に使用致したく存居候頓首
 四月十日□□生

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