奈良雜詠

比奈地畔川ヒナチハンセン 作者一覧へ

畔川
『みづゑ』第四十一
明治41年9月3日

 初めて奈良に入る
 夏霞奈良は生駒に入る日かな
 兩師巳に在り講習生九十名と註せらる
 秋暑き幾間の人や繪三昧
 曉起
 松落葉我一人ゆく東大寺
 春日社
 カナカナやなぎの林の金燈籠
 丸山師と歩む
 歩みつゝ小萩折りつゝ語りつゝ
 大下師と歩む
 春日野や鹿の抜け道薄紅葉
 若草山
 畫をかけば見居る女や鹿近し
 大佛殿修理
 人と鳩高き足場や秋の空
 猿澤の池
 ちり柳塔を仰いで人立てり
 三笠山
 月代にまだ起きて居る三五人
 法隆寺行
 劫掻きに鹿やは居らで法隆寺
 奈良を去る
 ゴーと響く鐘も行水名殘かな

この記事をPDFで見る