紹介


『みづゑ』第四十一
明治41年9月3日

 ラスキンは曰へり「余輩は十餘年間ターナーと相識つたが、彼れこそは世の罪惡を心から悲しめる一人であつて、更に他人の身上や行爲に就て罵聲など放つたことなく、又更に彼の不人情を仕打や憤怒面持を見た事がない、余は多くの人を知れど此賛辭に値するは唯だターナー一人である」云々
 青年の友八月號に安藤氏の『畫聖ターナー』あり、畫を學ぶ人の一讀を要する好文字であつて、前記はその一節に過ぎぬ。青年の友は、青年の修養上必讀すべき雜誌である(一部六錢、小石川小日向臺町二丁目、家庭の友社發行)
◎ヨボ記薄田斬雲著
 韓國の風俗案内等を畫き出せる書は世間に澤山あるが、此書の如く實景のよく現はれてゐるのは少ない。尤もこれは文士の手になつたもので、内容は著者自身の實驗から出てゐるから讀んで甚だ面白い。韓國の様子を知りたい人、渡韓したい人に此書を御勸めする(四六形三〇五頁、定價六十錢、神田表神保町同文館)
◎女學生日記文範文學士中村枯林著
 いさ子といへる浮世の塵につゆ染まぬをとめ子の東京遊學日記にして、四月出京に始まり翌年三月の試驗迄の出來事、感想等を著者獨特の美はしき筆を以て誌されたり。いさ子の優しく女らしきうちに、毅然として世の浮華なる風潮と戦ひ、絶えず光明の希望を持しつゝ修養を積みゆくさまよく書かれたり。されば此書は、啻に日記の文範たるに止まらで若き女子の身を修むる上に資するところ大なるべし。成美氏の挿畫また可なり。(三六形美装定價五十錢、日本橋本町、金港堂)
◎國木田獨歩新潮第九巻一號として
 發行せられしもの、獨歩氏知友諸名士の筆になり、氏に對する感想、作品の評論、小學校以來の經歴、及逸事等を載せて殆と剰す處なし。獨歩の作を喜ふの人は、此書によつて其人となりを知れ、而して其作に對せは興味愈々多からん(菊判二百餘頁、價四十五錢、麹町土手三番町新潮社)

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