圖按法概要 第四 圖按の種類と範圍
比奈地畔川ヒナチハンセン 作者一覧へ
比奈地畔川
『みづゑ』第四十二
明治41年10月3日
廣い意味の圖按の應用せらるゝ範圍は實に廣大無限であつて、恐らくそれを分類したならば、この關係せらるゝものゝあまりに複雜なるに驚かるゝであらう。大は建築の如き宏壮なるものより、小は些細な携帯品の如きに至るまで、多少の圖按的意匠の應用せられて居ぬものはない。
けれども、今單に圖按と一口に云はるゝものは、重に美術工藝品に關する圖按であつて、以下説く處のものも皆それ等に付てゞある。
次に、圖按といふことを直ちに摸樣と解して居る人があるけれども、摸樣と圖按とは少しく意味が違ふ、即ち圖按は、一器物の形状樣式、それ等に配する摸樣及彩色迄も含有せられしものである、單に摸樣と云はれた場合は、圖按の一部とみて差支ない。
圖按の主要とする所は摸樣であつて、實に摸樣は装飾中の大部分を占めて居ると云ふてよい、工藝圖按を作る上に於て、最も思考を要するのは摸樣である、摸樣のことは追て其項に説明することゝする。
圖按の應用せらるゝ範圍は上述の如く廣大であるけれども、是を用途上の上から大別すると一、實用的圖按二、装飾的圖按三、實用と装飾とを兼ねたる圖按の三分類とすることが出來る。
實用的圖按とは、實用に重きを置く圖按にして、質實便利を旨とし、隨て多くの意匠装飾を施す必要のなきもの即日常の飲食器具調度の如きものである。
装飾的圖按とは、以上と相對するものであつて、專ら意匠模樣のそれ等に注意を拂いたるものであつて、床飾の花瓶、書棚、置物などその類である。
實用と装飾とを兼ねたるものは、云ふ迄もなく上記兩者の兼ね應用せられたるものであつて、室内電燈窓掛等多くの種類がある。近者生活状態の複雜は、夥だしく此種の工藝品を増加したのである、按者はよろしく其用途に鑒みて按を起てなくてはならない。
亦、圖按が適用せらるゝものゝ材質は亦多方面に互りて、自然的のもの、人工的のものゝ多種類より得來るが之を大別するときは一、金屬類二、土石類三、木竹類四、牙角類五、甲貝類六、絹綿類七、毛羽類八、漆膠類九、紙類なとである、尚之を細別するときは非常の種類となるであらう。
次に、圖按を必要とするところの各種工藝品の種類から、最も關係深きものを分類するときは一、絲製品類二、窯業品類三、塗料品類四、金屬品類五、彫刻品類六、印刷品類等であつて、以上を各種目に付て分類する時は一、染織物刺繍編物等二、磁陶器土石七寶玻璃等三、★漆器蒔繪ゴム製品ラツク塗物等四、彫鑄金鍛金板金細工物等五、粘土木竹彫牙角甲貝石彫等六、石木銅亞鉛白亞板等などで、如何に一目しても圖按の多方面に應用せらるゝかを知ることが出來やう。
今試に圖按の研究として、種類を併記すれば建築圖按装飾品圖按染織品圖按陶器漆器品圖按木工品圖按金屬品圖按等であるが、尚是は細別することが出來る。(禁轉載)