英國水彩畫家の使用繪具

石川欽一郎イシカワキンイチロウ(1871-1945) 作者一覧へ

欽、石川
『みづゑ』第四十二 P.15-16
明治41年10月3日

 水彩畫に使用する繪具は、初學の内は何色と何色とゝ一々教へられて、其通りの十色乃至十二色にて畫くことなれども、追々研究する中には白分の好む色が定まり、遂に自分の勝手に色數を使用するようになるものなり。故に畫家に依りて用ゐる繪具同一ならず、名々別々なる處に面白味あるべし。茲に其例として英國水彩畫協會員の中にて二三水彩畫大家のパレツトを擧ぐべし。
 サー、エル、アルマ、タデマ
 白は一切用ゐず凡て透明色のみを用ゆ
 アル、アンニング、ベル
 使用の繪具一定せず常に新色のみを試用す
 イー、エー、ウオーターロー
 此人は色數を稍多く使用す、即ちレモンイエロー、ヵドミュム一號及二號及オレンヂカドミユム、オレオリン、イエローオーカー、ローシエンナ、コバルト、セルリアン、フレンチブリユ、チヤコールグレー、ピンクマダー、ブラオンマダー、パープルマダー、ライトレツド、バーントシエンナ、バーントアンバー、コバルトグリーン、及時としてはリアルオルトラマリン、インヂゴ、ヴエルミリオン、ローアンバー、コバルトヴァイオレツト、
 イー、エー、フオルブス(フオルプス夫人)
 白、ペールレモンイエロー、ヂープレモンイエロー、ペールカドミユム、オレンヂカドミユム、ヴエルミリオン、ライトレツド、インヂヤンレツド、イエローオーカー、ローシエンナ、ローズアンチク、コバルト、コバルトグリーン、アイボリブラツク、
 ジー、ローレンス、ブーレイド
 此人の色數は少なし即ちローズマダー、ライトレツド、カドミユム、フレンチブリユー、ブラオンマダーの類
 又た非常に多く色數を用ゆる人もあり即ちアーサー、ホプキンスヴァイオレツトミネラル一號、ローズマダー、コバルトイエロー(或はオレオリン)、ペールカドミユム(或はドラツフオヂル一號)、ヂープカドミユム(或はドラツフオヂル三號)、オレンヂカドミユム、セルリアンブリユー。、コバルトヴアイオレツト、バーントシエンナ、ヴエネシアンレツド、ローシエンナ、トランスパレントゴー★ヅンオーカー、イエローオーカー(或はオツクスフオードオーヵー)、テラヴアート、アイボリーブラツク、ローアンバー、トランスパレントブラオン、ニユーブリユー、マツダーオレンヂ、パーマネントレーキ、パーマネントイエロー、ローズマダードレー、サンニーグリーン、アリザリングリーン、ターナーブラオン、白、オレンヂヴアミリオン、オルトラマリンアツシユ、
 此中には未だ見た事のない色もあるが、要するに繪具は畫家の都合次第で、多きも少なきも我勝手なれば、他より干渉を受くることは無きも、早い戸外寫生等には、餘り色數多きよりも十色か十二色とする方便利にして手廻はり宜しと知るべし。

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