寄書 オドロ記
アイ、テイ生
『みづゑ』第四十二
明治41年10月3日
○小生が奈良の講脅會に出席して驚いたことが澤山あります、左にこれを並べて見ませう
○まつ第一に大下先生のセイの高いの、よくも鴨居へ頭をうつちけぬといつも感心してゐました
○次は會員森田君の體格、未丁年者で二十四貫は恐ろしい
〇三山亭のオカミサンも女で十八貫は一寸大きい
○奈良の大佛さまは是に比べて小さい
○何處の講習でも午前半日が通例だが、水彩畫の講習は朝から夜迄とは驚ろかざるを得ない
○朝の七時から十二時迄、午後の三時から六時まで、夜の八時から十時迄、合計十時間、此暑中を毎日教導の勞をとらるゝ講師兩先生の熱心には大に大に驚かされた、そしてその間に作品の批評もされる
○會員の勉強にも驚ろかされた、毎朝四時半に起きて寫生に出かける、雨が降るから休むかと思へば、却て雨景が面白いなんていふて出かける、よくもこんなに勉強が出來たものだなと感嘆した
○モ一つ驚いたのは先生方の作品陳列だ、水彩畫を版より見たことのない小生故無理はないが、繪といふものはこう迄も畫けるものかと呆れた、そして精密なのもあり、粗末なものあり、一々その自然によつて筆鋒の異つなつてゐるのには敬服した
○まだ驚ろくことがある、これ等の作品のうちスケツチは三十分、一時間、永くて二時間位ひで出來たといふのだ、小生なら半日はかゝると思ふ
○素敵に驚いたのは、石川先生のスケツチに十五分間といふのがあつた、何も早いばかりがよいのでもあるまいが、全くグツグツしてゐると自然の有樣が變化して別物になつて仕まふ、スケツチを早くする稽古は肝心だと思つた
○最後の驚きは十四日の大雷雨だ、非常な勢て雨が降る中を、ピカピカと來たかと思ふと同時にガラガラガラ三山亭の近くに落雷した時(終)