水貼り(その一)


『みづゑ』第四十三
明治41年11月3日

 無性もの、不眞面目、寫生の失敗を苦にせぬ人、こんな側の方々は御勝手であるが、水彩畫を畫く紙は、一寸したスケツチにしても必ず畫板に水貼すべきものである。
 畫用ピンで紙の四隅を留めて置たゞけでも畫が描けぬといふのではない、が、紙は水を含むと伸びるものであるから、畫面が不平等に脹れ上つて、乾き方も遲く、自然乾くのを待つために貴重な時間を空費する、時々刻々移りゆく景色に對して筆を走らす時の、一分なり二分なりの時間の如何に大切なるかを知るものは、寫生前の五分十分の水貼の時間を惜まぬ筈である。
 水貼りをする時は、紙の兩面をよく濕す方がよい、水の中へすつかり漬けてもよい、海綿に水を充分含ませて、兩方をムラなく濕すのもよい、よく紙が伸びて柔らかになり、巻いても跳返らぬやうになつたら、水を切つて畫板の上へ正しく載せる、そして水分が多いと、縁貼の糊が利かぬから、乾いた布地か日本紙で縁だけ押へて水氣をとるとよい。

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