関西美術會第七回展覽會

戸張孤雁トバリコガン(1882-1927) 作者一覧へ

戸張孤雁
『みづゑ』第四十三
明治41年11月3日

 關西美術の粹は京都美術館に於て十月九日より十一月八日まで一ヶ月間展覽されて居る、今其出品畫中の水彩畫に就て佳作と思ふもの擧げ、其れに短評を試みやう。一體畫を作ると云ふ事は全々否認すべきものではないが、畫を作る事が主となる樣になつては到底完全の畫は凡人には出來得ない、此の、畫を作る弊は東京にもあるが、關西の展覽會を始めて見た余の目には一層甚だしく感じた、尚ほ一ッの缺點はコンポジシヨンである、京都奈良等は我が國の美術寶庫であるから、寺院にある古畫の傑作を見ても、コンポジシヨンは學ぴ得るのであるが、何故か一般に幼稚である、此の二ッが缺點と見えた、まだ目録も出來て居らんから陳列順に批評して見やう。
 水彩畫
 山本勇吉氏『井戸端』は全部を畫と見ては缺點が多い、むしろ上半分を切り捨て下半分を見た方が善い、筆意も輕く色も豊富で感じも、コンボジシヨンも申分ない。
 榊原一廣氏『樹陰』一寸目に付く畫であるが、木の寫生が甚だ不忠實である。
 一九三の鈴鹿山も一寸面白い。
 國松金左衙門氏『村の春』畫を六分し右二分と左一分を取り去つたらコンボジション感じ等缺點の無い作である、傑作である。
 沼部強太郎氏『月の出』並木街道に月を見るの樣を描ゐたものである、此の畫も前同樣右方の三分の一程が不必要となつて居る、一寸人目に付く畫である、佳作である、「二月堂」も一寸見られる。
 寺松國太郎氏『殘照』面白いがバツクがブルー勝である事が缺點である。
 柳田健吉氏海景を澤山出品されて居るが、色が單調で其上水の動きの觀察が頗る不充分である。
 其他に東都の畫家の作品が八點ある、石井柏亭氏河井新藏氏各四點づゝ。河合氏の作品は場中異彩を放つて居る。
 淺井氏の遺作も澤山展覽されて居たが、此れには世すでに定評があるからこゝにくどくどしく云はない。
 館を出てから關西美術院研究所を訪ひ、所員の案内で石膏とライフの二級を見た、ライフには十數名の男子と三名の女子が熱心研究をして居た、所員の語る所に依ると、女子のモデルを得る事頗る困難、ほとんど皆無、只はずかに前記三名内の人の特志に依て補はれ研究されて居るとの事、關四美術界の爲め此の特志女子あるを喜び、併てそれ等の女子の心身共に壮健ならんことを祈る。
(編者いふ、此他油繪の批評ありしも紙面の都合上省略したりこの段戸張氏及讀者に謝す。)

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