ヴエラスケスの話

MO生投
『みづゑ』第四十三
明治41年11月3日

 スペエンの畫伯ヴエラスケスは國王ヒリップ四世の寵遇を受くること厚かつた。國王はマドリッドの宮中に畫室さへ設けてこれを與へ、且屡々此所へ訪問した。
 ヴエ氏が彼の名高い『官女』を描き、畫中に畫家自身が畫架に對して作業するの像を描き加へたとき、國王は少からず興味を起して毎日毎日歩を畫室に連ばれた。或日ヴエラスケスはパレットを置き筆を投げて、出來上がつた事を王に告げた。ところが王は「否、尚一ケ所欠けて居る所がある、」といひつゝ畫筆をとつて畫中ヴエラクケスの像に加筆し始めた。
 ヴエラクケスは驚いて凝覗してゐた、最後のタツチを國王が描き終へた時に、最高の勲章が自分の像の胸部に描き出されたのを見た。(MO生投)

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